少年は夜に夢を見る

 あの夜のことは今でもよく覚えている。

「もう会えないの?」
「かもな」
「俺やだよ。遊びに来てよ」

 彼は優しく微笑み――仮面で顔の半分は見えなかったけど、多分そうだと思う――力強く抱いてくれた。
 彼が本当の兄であれば良かったのに。そうしたら、孤児院なんかに居なくて良かったし、彼と数々の冒険を共に出来ただろう。

「見ろよ、テディ」
「なにを」
「街は広いだろう」
「うん」
「世界はもっと広い」
「だろうね」
「お前は一人で飛べるさ」
「無茶言わないでよ」

 彼は笑いながら手を離した。僕は慌ててしがみついた。

「ちょっ落ちる!落ちるから!」
「魔法使いは飛べるんだぞ」
「まだ魔法使いじゃないよ!?」

 彼は時々、夜の散歩に連れ出してくれた。
 空を飛び、どこかの屋根で過ごす一時は、二人だけの秘密だった。
 どうして僕だけ、とか、どうして顔を隠して、とか。聞きたいことは山程あったけど、聞いたら会えなくなる気がして、ずっと口に出せずにいた。…どうせ会えなくなるのなら。

「…ねぇ、」
「飛べるようになれよ、テディ」
「え?」
「そうしたら、俺に会いに来い」

 彼は、最後まで教えてはくれなかった。

「泣くなよ」
「泣いてないよっ」

 眼下に広がる夜の街は、いつもよりずっと煌めいて見えた。


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その後テディは真語魔法の修行に明け暮れ、15歳で旅に出る。
尚、怪盗さんが飛ぶ時は背中に翼が生えていた模様。
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